最前線コラム
今、最適設計支援ツールに何が求められているのか ~ ユーザのニーズから導入のポイントを探る ~ 【サイバネットシステム】
1. はじめに
近年、シミュレーション技術やハードウェアの処理能力の向上に伴い、製品品質を向上する手法として最適設計支援ツール(以下PIDOツール:Process Integration & Design Optimization)を用いることが一般的となりました。また、PIDOツールの基本機能である自動化・統合化・最適化は、ユーザーの設計業務の効率化に寄与し、業務改革を実現してきました。しかしそれに伴い、市場には多くのPIDOツールが存在するようになり、ユーザーが選定する際の差別化が非常に困難になっています。本コラムでは、我々が多くのユーザーと話し合いを重ねた結果見えてきた「これからのPIDOツール求められるもの」をあげ、導入の際に注目すべきポイントをご紹介します。
【見えてきたお客様のニーズ】
1)限られた開発期間内に効率的に最適解を見つける
2)現実に起こる不確定要因(バラツキ)を考慮する
3)誰もが気軽に利用できる環境が用意されている
2. ニーズ1:効率を追求した最適化
まず、「限られた開発期間内に効率的に最適解を見つける」については、2つの解決策が考えられます。まずは最適化手法自体が少ない計算回数で最適値を見つけることができるかということです。大域的最適化手法である遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)などは、局所解に陥ることが少ない有効な手法として知られていますが、計算回数が膨大となる問題点があります。そこで現在注目されているのが、内部的に実験計画法と応答曲面を利用して計算を効率化するハイブリッド型の最適化手法です。その代表的な手法としてEGO(Efficient Global Optimization)が挙げられます。
EGOでは、まず始めにラテン超方格法を用いてサンプリングを行い、そのサンプリング点を元に応答曲面を作成、次に作成した応答曲面の精度を内部的に判断し、精度が悪い箇所に対しサンプリングを追加実行して、応答曲面をアップデート。これを複数回繰り返し、応答曲面の精度を一定以上にした段階で最適化を実行します。
応答曲面を利用するためシミュレーションの実行回数を大幅に削減することが可能であり、実際に従来の遺伝的アルゴリズムと比較しても5倍~6倍の高速化が可能である証明されています。また、一連の作業は全てEGOが自動的に実施するので、ユーザーが応答曲面の精度を気にする必要も無く、特別な知識が無くても利用可能です。
他に同様のハイブリッド型の手法として、局所最適化手法のAdaptive Region法や、多目的最適化手法のNSEA+(FAST)があります。
例えば、Noesis社の「Optimus(オプティマス)」にはこれら全ての最適化アルゴリズムが搭載されています。短い開発期間での成果が求められているユーザーにとって、計算回数を減らす工夫がされている手法が搭載されていることが重要なポイントとなるでしょう。
図1 分散処理の実施例
最適化計算はシミュレーションを複数回実行する必要があるので、もし1CPUだけで繰り返し計算をする場合には、「1回あたりの計算時間」×「繰り返し計算数」の所要時間が必要となります。もし1回あたりの計算時間が数時間かかる問題を取り扱う場合、最適解を算出するまでに数ヶ月を要する場合もあり、限られた開発期間に収束できない可能性があります。
そこで活躍するのが、最適化計算の分散処理です。社内で空いているCPUやシミュレーションのライセンスを最大限に活用することにより、最適化計算の高速化を実現します。
例えば、1回当たり2時間かかるシミュレーションを最適化計算で700回実行する場合、トータルで約58日必要となりますが、8CPUを利用して分散処理をした場合は、通常の1/8の計算時間、つまり約1週間(7.2日)で最適化を実現することができます。
限られた開発期間の中で、できる限り最適化計算を高速化させる取り組みとして、最も有効的な手段が分散処理です。
3. ニーズ2:現実に起こる不確定要因(バラツキ)した最適化
通常シミュレーションでの計算結果は、実際に起こりうる製造上の公差や、製品を使用する際の気象条件の変化などは考慮されていません。これらの不確定要因を無視した、理想状態で最適化を行い制約条件ギリギリの最適解を導き出しても、現実に起こるバラツキが生じることで、本来求められている製品性能を発揮できない場合がほとんどです。
最悪のケースになると、製品リコールということになり多額の損害が発生することになります。
このような問題に対処するのが、ロバスト・信頼性と品質工学手法です。入力のバラツキに基づいて確率論的な計算を行うロバスト・信頼性計算は、これまでモンテカルロ法の利用が一般的でしたが、計算回数が膨大となり最適化と組み合わせることは難しいとされてきました。
実際にベンチマークを行った結果では、モンテカルロ法を用いてロバスト・信頼性を計算するためには、最低でも100回以上の計算回数が必要であり、厳密な精度を追求する場合は500回以上の計算が必要となります。この問題を解決する手法としてOptimusで採用しているのが、FOSM(First Order Second Moment)やFORM(First Order Reliability Method)、Importance Samplingといった内部的に近似を行うことで、計算回数を減らすことができる手法です。
これらの手法は、モンテカルロ法の1/50~1/100の計算回数でロバスト・信頼性を評価することができるため、これまで取り組むことが難しかったシックスシグマデザインの実現を可能にしました。
また、もう一つの製品のロバスト性を高める手法として、大手企業で多数採用されているのが品質工学(タグチメソッド)です。
品質工学による設計では、直交表、SN比・感度、分散分析表、要因効果図などの様々なステップを実施する必要がありますが、それらは表計算ソフトなどを用いて、ユーザーが作成するのが一般的でした。しかし、複数の直交表の搭載や計算式に対応するためには、多くの工数がかかってしまい、その上、直交表に基づくシミュレーションの実行は、担当者が1ケースずつ手動でサンプリングをする必要があり、担当者は単純作業に多くの時間を費やしていました。
これらの問題を解決することができるのが、Optimusの品質工学機能で、本機能では直交表への因子の自動割付から、シミュレーションの自動実行、要因工数図や分散分析表の表示まで、パラメータ設計に必要とされる全てのステップを自動化することができます。
これによって、本質的ではない単純作業を削減し設計検討の本質に注力することが可能になります。
4. ニーズ3: 誰もが気軽に利用できる環境
一般的にはPIDOツールというと、「解析のエキスパートだけが利用する敷居が高いツール」と思われがちですが、短期間で設計品質を向上し業務効率を改善することができる、という効果を考えると、製品設計に携わるできるだけ多くの開発者が利用することが望ましいと言えます。実際に、PIDOツールで確認することができる、「どの入力値が目的に対し大きく影響を及ぼすのか」といった寄与度や、「Aというパラメータが変化したときに、Bはどうなるか」といったパラメータ同士の相関性は、設計者自身が確認しその知識を設計に活かすことが理想的です。
図2 UCAの一例
その点、Optimusでは「OPENNESS」をコンセプトに、誰もが簡単に利用できる開かれた環境を提供しています。まず、シミュレーションとの接続部分については、シミュレーションとのインタフェースをカスタマイズすることができるUCA(User Customizable Action)を搭載しており、パラメータの設定やCAEのバージョン選択、OS毎のコマンド入力を登録することができます。一度UCAを作成すれば、後は社内の異なるユーザーやマシン間でも共有することができるので、設計者は完成されたUCAを利用するだけで、すぐに最適化に取り組むことができます。
また、一般的なシミュレーションツールのUCAについては、Optimusのユーザーであれば、弊社のホームページからダウンロード可能です。(ANSYS、NASTRAN、ADAMS、STAR-CDなど)また、「設計者に新たなツールの操作を覚えさせたくない」といったユーザーには、Excel等の誰もが扱えるツールからOptimusをバッチ実行できる環境も提供しています。
Optimusは構成ファイルが全てテキストベースになっており、Excel等の外部ツールからバッチ実行することが可能で、この機能によって設計者はOptimusの操作を全く意識せずに、Excel上で入力の上下限値を設定し、最適化実行ボタンを押すだけで、最適化を実現することができます。
5. まとめ
PIDOツールは自動化・統合化・最適化の基本機能でユーザーに受け入れられていましたが、時代と共にツールは進化します。今利用しているPIDOツールが、本当に自分たちにとって最良であるのか、PIDOツールを利用することが目的になってしまい、自分たちの本当にやりたいことに制約を課してしまっていないか再確認してみてください。PIDOツールは導入の目的にあったものを選ぶことが重要ですが、新規導入、また必要に応じたツール乗り換え検討の際には、本コラムで紹介したようなポイントも確認のうえ選ぶことが重要となります。
サイバネットシステム株式会社 MDS推進センター マーケティングオフィサー
古井 佐土志
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